##02 駆け引きの行方

交渉事が好きなようだった。

ネットゲーム、ボードゲームはもちろん、購入する物の値引きや交換のレート。直接交渉が無理でも、労力が折り合うポイントを模索することを好んでたように思える。

「家にソーラーパネルの営業がきてさぁ、あれは一人暮らしの老人とか買っちゃうわ。すげー調べて、逐一質問して、ようやく追い返したわ」

いつだったか、そんな話を聞かされた。

交渉が好きというよりは、立ち回りや駆け引きを楽しんでいたのだろうと思う。

 

2006年に地元で magic the gathering の グランプリ が開催された。

この GP はチーム戦で、3人のプレイヤーと3つのデッキが必要だった。 Y氏 というゲーム仲間が「面白そうだからやろうぜ」と音頭を取ったので、暇を持て余した自分と UR の3人で挑むことになった。もともと使い慣れた色を選んだ結果、Y氏がオルゾフ・ビート?、自分がZoo、UR がイゼット・トロン?を持つことになった。大会の数日前か直前だったか UR が「ミラーで絶対刺さるから辰正入れたい。メイン2、サイド2」そんなような話をした。各々がデッキ調整をしていたので反対する道理も無かった。

結果としては4勝3敗(だったかな)で、決勝には残れなかった。チーム戦という環境を上手く使えなかった点、ミラーマッチの対応が難しかった点など反省の要素はあったが、デッキ調整やテストプレイに1ヵ月ほど打ち込んだ充足感はあった。

何戦目だったか。数ターンで勝敗が着いたので UR の試合を後ろから見ていた。パーミッションは殊更時間がかかるため、まだ1本目だった。"龍の牙、辰正"が墓地に1枚、場に1枚あるのが見える。「1枚割れて、返しで出したんだな」誰もが思い描くシナリオだ、問題ない。だが次の瞬間、私は目を疑った。

UR の手札には"辰正"が握られていたのだ。確か直前に「メイン2、サイド2」と言っていたやつだ。だがこれは一本目のデュエルだ。サイドボードのカードが、メインで入っているわけがない。勢い、そのまま UR がデュエルを制した。

対戦相手が「辰正メイン4とか無理だわ」とチームメイトに漏らしたのを覚えてる。UR が「いやー辰正、ミラーで刺さるんですよね。昨日のテストプレイで、イゼットは真ん中に座る傾向が多かったんで最初から入れるようにしたんです」とかなんとか、めっちゃ親しい友人のごとく会話してたが、全部嘘だ。前の試合がミラーだったのでサイドから抜き忘れていたのだ。試合後、そのように報告してきて「あぶねー、相手が緩くて助かった」とか言ってた。デュエルも試合後も、うまく立ち回れたので嬉しそうだった。

 

あれは流石に、相手も気づいていたって。